2024年4月にスタートした容量拠出金とは?容量市場の仕組みや影響を解説

容量拠出金とは?容量市場の仕組みや影響を解説

「容量拠出金とは何?」
「容量拠出金は家計に影響がある?」
「容量拠出金が決まるしくみは?」

電力会社からのお知らせやニュースなどで「容量拠出金」という言葉を見かけて、何のことか気になっている人も多いのではないでしょうか。

容量拠出金の導入で家庭の電気代が上がるのであれば、どれくらい上がるのか知っておきたいですよね。

容量拠出金とは小売電気事業者や配電事業者、一般送電配電事業者が配電事業者に支払う費用のことです。

容量拠出金は2024年4月から導入されましたが、この費用は契約者が一部負担する見込みで、電気料金の値上がりが予想されています。

本記事では容量拠出金とは何か、また導入された背景や金額の算定方法について詳しく解説します。

容量市場の仕組みや電気料金への影響についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。

容量拠出金とは

容量拠出金とは?

容量拠出金とは、容量市場で確保された将来の安定的な電力供給力に対して支払う報酬のことです。

容量拠出金は小売電気事業者や一般送配電事業者、および配電事業者に課されます。

名称機能
発電事業者火力発電や太陽光発電で発電を行う事業者
小売電気事業者料金設定や各種手続きを行い、消費者との窓口となる事業者
一般送配電事業者送電線や配電線を管理し、電気を発電所から消費者へ運ぶ事業者
配電事業者一般送配電事業者と業務内容は同じだが、供給力の規模が小さい

詳しく解説します。

容量拠出金は発電所を所持していない事業者に課された費用

容量拠出金は、国内の電力の自給を維持するために、発電所を所持していない事業者に課された費用です。

発電所を所持していない小売事業者や一般送配電時事業者、配電事業者は、自社で電力を生み出すことができないため、他の発電事業者や卸電力市場から電力を買って、それを消費者に売っています。

ただ、発電にはかなりの費用がかかるため、発電所を持たない小売事業者はお得ということになってしまうわね。

「発電所を持っていると費用がかかるので損をしてしまう」という構図が成り立ってしまうと、発電所を廃止する事業者が出てきかねません。

もともとエネルギー自給率が低い日本において、電力不足がますます深刻化しかねないため、発電事業者から電力を買っている事業者は、対価として容量拠出金を支払うよう定められました。

経済産業省によると、2021年どの日本のエネルギー自給率はわずか13.3%で、OECD38ヵ国中37位と非常に低くなっているわ。

これにより、発電所を持つ施設は発電所の新設・維持コストが確保できるようになったほか、電力業界全体としても、将来の電力不足のリスクを軽減できるようになりました。

容量拠出金の加算で電気料金は値上がりの見込みあり

ただし容量拠出金が導入されたことで、消費者が支払う電気料金が値上がりする可能性があります。

電力広域的運営推進機関によると、2024年度の容量拠出金の総額は1兆5,987億円に上ります。

電力広域的運営推進機関とは

全国の電力会社をつなぐ機関で、広域機関とも呼ばれています。

国全体で必要な電力は、容量市場を管理する電力広域的運営推進機関で一括確保しています。

需要の持ち方で各事業者の負担額は異なりますが、200億円以上の負担を強いられる事業者も少なくありません。

事業者だけで支払える金額ではないため、電気料金へ価格転嫁する電力会社も出てきており、その結果、消費者が支払う電気料金の値上がりが生じると見られています。

各小売電気事業者の平均負荷率が30%の場合、消費者の負担は1kWhあたり3.63円増す計算だよ。

容量市場とは

容量市場とは

容量市場とは、将来の電力供給量を確保するために設けられた市場です。

発電所が4年後にどれくらいの電気を供給できるのか、その発電能力(kW)を価値化して取引します。

具体的に価値化することで、さまざまな発電事業者が市場に参加しやすくなるよ。

なお容量市場で取引されるのは、実際の電力量(kWh)ではなく、4年後の供給力(kW)です。

容量市場を知るうえで、押さえておきたいポイントは3つです。

  • 容量市場の開始時期
  • 容量市場が導入された背景
  • 容量市場を含む国内の電力市場

容量市場の仕組みを知ることで、電気料金の値上げや容量拠出金に関する理解を深められます。

容量市場が導入された背景や役割を詳しく学んでおきましょう。

容量市場の開始時期

容量市場は2020年度に広域機関によって開始されました。

容量市場では2020年以降、毎年メインオークションが開催されています。

メインオークションとは

メインオークションは広域機関が開催するもので、落札電源と約定価格を決定し、全国で必要な供給力を一括して確保します。

発電事業者はメインオークションに応札し、落札した場合は供給力を提供します。

各小売事業者は、4年後の実需給期間が到来したら、約定価格にもとづいて容量拠出金を広域機関に対して支払います。

最初のオークションは2020年4月に実施されたため、4年後の2024年4月に初めての容量拠出金の支払いが発生しました。

つまり2024年4月からの容量拠出金は、4年前の2020年4月のオークションで決まっていたということね。

容量市場が導入された背景

容量市場の導入には、2016年4月1日以降の「電力の自由化」が大きく影響しています。

電力の自由化により、電力の小売業への参入が「登録制」になったため、誰でも簡単に行なえるようになり、2016年以降は多くの新規事業者が小売事業者として参入しました。

2023年6月末時点で、電力の小売事業者の登録数は730件以上にまでのぼっているよ。

小売事業者の増加で、消費者が自由に電力会社や料金プランを選択できるようになった結果、電力の売買が活性化し、価格競争で電気料金の抑制につながりました。

さらに再生可能エネルギーの拡大で、時間帯によっては電力の市場価値はより低下しています。

注意

ただし、再生可能エネルギーは天候や季節によって発電量が変わります。

安定的な電力供給のためには、火力発電の供給力調整が必要不可欠です。

容量市場は発電事業者の維持費用を確保するための市場

容量市場は、発電事業者の維持費用を確保するための市場です。

電気料金が下がり、発電事業者が十分な収益を得られなければ、新しい発電所の建設や稼働に必要な人件費の確保、またすでにある発電所の維持ができなくなるため、国内の電気量は不足してしまいます。

そこで小売電気事業者などが容量拠出金を支払うことで、発電事業者が維持費用を確保できるようになるというしくみです。

2022年には、東京電力と中部電力が折半出資しているJERAの火力発電所9基が、老朽化のため廃止したわ。維持費用は古くなるほどかさむので、投資回収が難しくなるわ。

また電気事業法上では、小売電気事業者は供給電力量(kWh)だけでなく、供給能力(kW)を確保する義務があります。

そのため、小売電気事業者は必ず容量市場に参加し、容量拠出金を支払う必要があります。

容量市場を含む国内の電力市場

日本国内には、容量市場以外にもさまざまな電力市場が存在しています。

主な市場は容量市場、卸電力市場、需給調整市場、非化石価値取引市場の4つです。

それぞれの市場が容量(kW価値)、電力量(kWh価値)、調整力、環境価値を取引しています。

市場名取引される商品
容量市場発電することができる能力(kW価値)
卸電力市場発電された電力量(kWh価値)
需給調整市場時間内変動やゲートクローズ後の電力調整能力
非化石価値取引市場化石燃料以外で発電された電気に付随する環境価値

容量市場のしくみ

容量市場のしくみ

広域機関が4年後に全国で必要な供給力を容量市場で一括して確保し、それをもとに容量市場でオークションが開催されます。

オークションは5つのステップで行われます。

  1. 広域機関が4年後の電力の最大需要を試算し、供給力として算定する
  2. メインオークションを開催し、落札電源と約定価格を決定する
  3. 価格が安い順に落札する
  4. 広域機関から発電事業者へ対価が支払われる
  5. 小売電気事業者は将来の供給に必要な電源確保のために、広域機関へ費用を支払う

容量拠出金の算定方法

容量拠出金の算定方法

容量拠出金の算定方法は4つのパターンに分けられます。

  • エリア別の容量拠出金総額の算定
  • 一般送配電事業者の負担額と請求額の算定
  • 小売電気事業者の負担総額の算定
  • 各小売電気事業者への請求額の算定

段階別に算定方法を知ることで、容量拠出金の請求額を導き出すことができます。

それぞれの算定方法を具体的に確認しましょう。

エリア別の容量拠出金総額の算定

「エリア別の容量拠出金総額」=「全国の容量拠出金の総額」×「当該エリアのH3需要比率」

全国の容量拠出金額をエリア別のH3需要比率に応じ、各エリアに配分します。

H3需要とは

ある月における毎日の1時間あたりの最大電力を上位から3日分とって平均した数値のことです。

なお、全国の容量拠出金総額は、全国の約定量×約定価格で算出されます。

日本全国の電力エリアは、地域ごとに9つに分けられています。

  • 北海道電力エリア
  • 東北電力エリア
  • 東京電力エリア
  • 北陸電力エリア
  • 中部電力エリア
  • 関西電力エリア
  • 中国電力エリア
  • 四国電力エリア
  • 九州電力エリア

一般送配電事業者の負担額と請求額の算定

「エリア別の一般送配電事業者の負担額」=「エリアの約定価格」×「当該エリアのH3需要」×6%

一般送配電事業者の容量拠出金の負担額と毎月の請求額は、エリアの約定価格に対し、エリアのH3需要に6%をかけることで算定します。

その後、各事業者の配分比率に応じて、請求額が振り分けられます。

小売電気事業者の負担総額の算定

「エリア別の小売電気事業者の負担総額」=「エリア別容量拠出金総額」-「エリア別一般送配電事業者の負担額-」-「経過措置対象電源の控除額」

エリアごとの容量拠出金総額から、一般送配電事業者の負担額および経過措置における控除額を差し引くと、小売電気事業者の負担総額を算出できます。

経過措置の控除とは

2030年までの間、一定の率で減額する措置のことです。

2024年は控除率42%が適用されています。

各小売電気事業者への請求額の算定

「小売各社への毎月の請求額」=(「エリア別の小売電気事業者の負担総額」÷12)×「小売各社の毎月の配分比率」

上記で算出した小売電気事業者の容量拠出金負担総額を12等分し、さらに小売各社の配分比率に応じて算出した金額が各小売電気事業者への請求額です。

小売各社の配分比率は、実需給年の毎月のシェア変動によって決まります。

そのため、すべての小売各社が同じ請求額というわけではありません。

容量拠出金による電気料金への影響

容量拠出金による電気料金の影響について、下記の条件で比較した場合、差額は月々2円です。

▼電力料金の比較条件

  • 東京電力エナジーパートナーの従量電灯Bプラン
  • 契約アンペアは30A
  • 月間使用電力量は260kWh

東京電力では、基本料金単価は上がっていますが、電力量料金単価が下がるため、全体ではひと月あたり2円ほど安い結果です。

現行料金
※平均モデル
見直し後料金影響額
東京電力7,560円
(内訳)
基本料金:885.72円
電力量料金:6,311.20円
再生可能エネルギー
発電促進賦課金:364円
7,558円
(内訳)
基本料金:935.25円
電力量料金:6,259.20円
再生可能エネルギー
発電促進賦課金:364円
-2円
(内訳)
基本料金:+49.53円
電力量料金:-52.00円
再生可能エネルギー
発電促進賦課金:0円

年単位で計算すると、24円ほど安くなります。

また同様に大手電力会社ごとに見た場合、それぞれ算定式が異なるため、電気料金の値上げ額には差があります。

電力会社影響額現行料金見直し後料金加算名目
東京電力-2円7,560円7,558円基本料金
北海道電力-2円8,318円8,316円基本料金
東北電力-24円7,545円7,521円加算なし
北陸電力+1,559円7,009円8,568円基本料金
中部電力+38円7,291円7,329円基本料金
中国電力+27円7,197円7,224円基本料金
四国電力-3円7,272円7,269円基本料金

北海道電力や北陸電力など、電力会社によっては値上げとなっています。

また新電力も、供給エリアによって値上げ幅が異なります。

値上げ幅加算名目
Looopでんき+1.5円~4.20円/kWh従量料金単価
TERASELでんき-14円~+76円電気料金
ミツウロコでんき-31円~+83円電気料金

Looopでんきの場合、電力単価が4.20円/kWh値上げになると、毎月260kWh使用する家庭であれば、ひと月あたり1,092円が値上がりする計算です。

容量拠出金でよくある質問

容量拠出金でよくある質問

容量拠出金のよくある質問と回答をまとめました。

容量拠出金とは?
容量拠出金とは、容量市場で確保された将来の安定的な電力供給力に対して支払う報酬のことです。
容量拠出金で発電所の建設費用や補修費用の不足を防ぐことが目的で、広域機関が供給力(kW価値)を一括確保し、実需給期間に小売電気事業者、一般送配電事業者、配電事業者が供給力の対価として発電事業者へ費用を支払います。
実際の容量拠出金の支払いは2024年4月から開始されました。
>> 容量拠出金についての説明を詳しく見る
容量市場とは?
容量市場とは、将来の安定した電力供給のために開設された市場です。
まず広域機関が4年後の電力の供給力(kW)を価値化して確保します。
確保した供給力はオークション方式で募集され、広域機関から発電事業者へ対価が支払われます。
その後、小売電気事業者は将来の供給に必要な電源確保のために、広域機関へ費用を支払います。
>> 容量市場についての説明を詳しく見る
2024年度の容量拠出金はいくら?
2024年度の小売電気事業者の容量拠出金負担額の総額は、経過措置控除後で1兆4,650億円です。

まとめ

最後に、容量拠出金についておさらいします。

  • 容量市場で確保された将来の安定的な電力供給力に対して支払う報酬のこと
  • 事業者の費用負担を補うために、電気料金へ価格転嫁されるケースがある
  • 価格転嫁された結果、電気料金の値上がりが懸念される
  • 電気料金の値上げは電力会社によって異なる
  • 値上げ対策として、電力会社や料金プランの乗り換えも検討の余地あり

容量市場や容量拠出金の導入は、4年後の供給力確保が目的です。

電力市場の安定化のために必要な策ですが、容量拠出金が加算されるため、電気料金の値上がりは避けられません。

電力会社にもよりますが、電力会社や供給エリアによっては1,000円以上値上がりになるケースもあります。

残念ながら、電気料金の値上がりを回避する根本的な策はありません。

節電対策である程度の電気料を抑えることができますが、基本料金の値上がりが行われた以上、個人で行える節電対策には限りがあります。

ムダな電気料を支払わないためにも、ライフスタイルに合った電力プランへの乗り換えを前向きに検討しましょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。